2009年5月21日木曜日

『日の名残り』

カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 ハヤカワepi文庫

作者は日系のイギリス人だが日本語は全くわからないそう.

職務に忠実で誇りを持っていたイギリス人執事の、自動車による一人旅と行く先々での出来事と執事の過去への回想.

出来事とはいっても事件らしい事件はない.
主人公の回想が根幹をなす.

過去への回想シーンでは、仕事をうまくやりとげてきた執事としての誇らしげな自分も描かれるが、仕事一筋であったばかりに一人の人間として、少しばかりの後悔も混じるようになってくる.
最後の方ではその後悔が、ほとんど主人公の心を占めることになって、読む者の心を切なくやるせない気分にさせる.

”いえ、いまさら隠す必要はありますまい.その瞬間、私の心は張り裂けんばかりに痛んでおりました.”

ここで初めて読者は、イギリス流のアンダーステイトメントの裏にある主人公の本音を目の当たりにし、主人公の悲しみに深い感動を覚える.

記憶が何たらかんたらと小難しいことも言えそうだが、人間の心理の機微を読みやすくエンターテインメントとしても(純文学としても)読める秀逸な作品.

またこの作品のモチーフとは外れるが、イギリスの外交、もしくはヨーロッパの外交の様子が描かれていて向こうのサロン外交がいかなるものか参考になる.

ラグビーの国際的な理事会で、日本の代表理事が事前に全く知らされていないことが本会議でいきなり採りあげられて決定してしまうことがあるそうなんだけど、物事が決まるのは本会議ではなく、あくまでも事前の根回し(ラグビーの場合は酒場でのパブ・ミーティングか).
ここで英語のできる人が丁々発止の意見交換をしないと取り残されてしまうんだな.

ラグビー界に限らず、日本人の外交ベタな理由がよく分かる気がする.
最近ではサッカー界もAFCの会長選挙で負けた(韓国のチョ・モンジュンの外交力だけでは至らず).

あともう一つ、アマとプロの違いについても「なるほどこういうことか!」と膝を打つシーンもあって読み所満載.

動画は本文とは関係ありませんが、個人的に楽しむためにブログにプレイリスト代わりにどんどんアップすればいいやと思い当たりまして.



2 件のコメント:

  1. ガスパール2009年5月21日 9:19

    この映画、高校生くらいの時に2本立てで映画館で
    、うとうとしながら観ました。
    今ならもう少し味わい深く観れるかも。
    俳優さん、名前忘れてしましましたが有名な方でしたよね。

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  2. 映画で主人公を演じていたのは、『羊たちの沈黙』のレクター博士で有名なアンソニー・ホプキンスですね.

    残念ながら映画は未見なのですが、この独白中心の作品をどのように映像化したのか興味深いです.

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